都市経営の新たな視点として、都市内の全てのステークホルダーによる円卓会議の重要性が浮かび上がってくる。

2025年2月1日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


経営という観点から都市を見る


都市とは本質的に「赤の他人」の集合体だ。現代では、領主様はおらず行政や地方政治家、そして市民自身が都市の未来を形作る。この複雑な構造を「組織(のようなもの)」として「経営」の視点で捉えると、新たな展望が開ける。

経営学者のリタ・マグラスによれば、現代の企業経営は次のように定義される。
組織の目標達成に向け、人的・物的資源を効果的に調整し、環境変化に適応しながら持続的価値を創造するプロセスである。
ネットワーク型組織管理、感情面を考慮した人材マネジメント、多様なステークホルダーへの配慮が重要となる。短期的利益追求ではなく、長期的視点でのイノベーションと持続可能性の追求が求められる。この包括的アプローチにより、組織は機械的システムではなく、有機的かつ適応的なエコシステムとして機能する。


ドイツの地方都市に見るステークホルダーの円卓会議


この定義は都市にも十分適用できる。私が住むエアランゲン市(人口12万人)では、1970年代に自転車道整備のため、市長が都市計画、土木、警察、自転車関連組織を集めてプロジェクトチームを結成した。「道路」には信号や下水があるので、多くの部署や組織が関わっている。そこへ自転車道を作ろうと言うわけだから、関係部署・組織に集まってもらった形だ。

21世紀に入ると、「育児・家族のための良好な環境づくり」「外国系市民との共生」といった課題に対し、経済、福祉、教育、文化、市民活動、教会、政治、行政など、あらゆる分野のステークホルダーが一堂に会する機会が設けられた。冒頭の写真は育児・家族のための環境づくりの課題に対して行われた話し合いのテーブルの一つだ。

これは当然の流れだ。市民の日常生活はあらゆる分野に関わっている。都市の重要課題に直面した際、全分野の関係者が集まり、それぞれの視点から課題の本質を考え、方向性を共有すべきだ。特に中小規模の自治体でこのプロセスは重要となる。


部活の地域展開は学校だけの問題ではない


日本でもすでによく似た取り組みはあるかもしれない。
しかし、私が気になるのは運動部活問題だ。これは部活と地域の構造を作り直そうという課題であり、どう考えても地域全体で取り組むべきものだ。

「地域社会にとってスポーツとは何なのか」という基本的なことを考えるためには学校のみならず、行政・生徒とその家族も含む市民、スポーツ施設、地元企業、NPOなどが同じテーブルについて話し合うべきなのだ。(了)

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著書紹介(詳しくはこちら

自転車どうやって作った?どうやって皆集まった?
スポーツと地域社会の関係は?

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら