年末に報じられたシリアの政情変化は大きなニュースだった。ここでは、ドイツ・エアランゲン市(バイエルン州、人口12万人)で今年10月に出会ったシリア人青年と、町を歩きながら、しばし行った対話を紹介したい。
2024年12月12日 文・高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
5年前にドイツにやってきた
シリア難民は特に2015年と2016年には大勢がドイツに到着した。そして、それ以前にやってきた人もいる。連邦内務省によると97万4000人以上のシリア出身者が住んでいる。(2024年10月現在)
そのため、シリア難民の中には、ドイツで育った人や、帰化した人もいる。2000年から2023年の間で約18万3000人がドイツ国籍を取得した。そのようなことから、シリアの政情変化は、日本社会に比べて、より身近な問題だ。
私は難民の方々にインタビューしたり、偶然出会って短い会話を交わすことが何度かあった。最近知り合ったシリアの青年は、5年前にドイツに来た。
彼は結婚しているが、子供はいない。妻はシリアに残っており、「もう長い間会っていない」と寂しそうに語った。夫婦ともに仕立て屋が生業で、店も持っているという。しかし、ドイツでは職業資格が求められるため、彼は仕立て屋として働くことができない。結局、レストランの配達サービスで生計を立て、毎日自転車で市内を走り回っている。
仕事をしなければお金は得られない
一方で、難民で来た人も、統計的には就労者の数は増えているが、子供が多いなどを背景に、主に社会保障に頼って生活している人もいる。ここに焦点があたって「ドイツ市民」による難民批判になることがある。
青年の周りにも、「ドイツの寛大さ」に甘えている人が一部にいるようで。「彼らは昼寝を楽しんでいる」と批判し、「働かなければお金は得られない」と述べる。
また、彼は車が好きで、駐車している様々な車を指さして「このメーカーの技術はすごい」などと話し、「十分お金を貯めたら、こんな車を買いたい」と笑う。これらの発言から、彼がドイツ社会に適応し、妻に会えない寂しさを抱えながらも、未来を見据えていることがわかる。
社会的統合と郷愁の間で
最近、彼のSNSを見ると、シリアの前向きな動きを喜び、フォロアーたちと「小さなお祭り」状態だった。しかし、ドイツにこれほど馴染んだ彼が、本当にシリアに帰りたいと思っているのだろうか、とも思った。私が購読しているエアランゲンの地元紙には、シリア出身の人々に「帰国するかどうか」について尋ねるような記事も散見される。
青年に「ドイツはあなたにとって良い国?」と尋ねると、彼は「まあまあかな。といのも税金が高すぎるから」と答えた。
この意見は個人的にも実感するところだが、彼が税金を払っているという事実は、ドイツ社会にどれだけ溶け込んでいるか、「社会的統合」を果たしているのかを示している。
極右勢力が勢いを増しているドイツだが、今やドイツ社会は「外国系」の市民なしでは成り立たない。職業資格や難民の子供たちの教育についての議論も継続的に行われている。(了)
著書紹介(詳しくはこちら)
外国系市民とどのように都市を作っているのか?
執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら