このほど、エアランゲン市(人口12万人、バイエルン州)で5回目のクリストファー・ストリート・デー(CSD)が開催された。このデモは、性的マイノリティの権利と平等を訴えるパレードで、1969年のニューヨークでの警察による同性愛者への取り締まりに抗議したストーンウォールの反乱を起源としている。


人口12万人の同市で、今月14日に行われたCSDには約2000人が参加した。同市内では年間200回程度、さまざまなデモや集会が行われるが、この規模のものはさすがに少ない。

同市には17世紀に宗教難民を受け入れた歴史があり「開かれていることは、町の伝統」という自認がある。これを受けて「開かれていることは、町の伝統 – エアランゲンは多様性を生きる」をモットーに市内をデモ行進した。市長のフロリアン・ヤニック博士も先頭に立ち、LGBTQコミュニティへの支持を示した。

団体の参加も多く、分野も多岐にわたる。キリスト教系の社会サービス協会、シーメンス・ヘルスニア(同市に拠点をおく医療技術の企業)、地元の中道左派政党や緑の党、市民団体「右翼に反対するばあちゃんたち」、エアランゲン大学、エアランゲン劇場などが確認できた。先頭のトラックには連邦家族省、連邦プログラム「生きたデモクラシー」、主催協会のロゴが掲げられていた。

レンボーカラーの傘をさしながら先頭を歩くヤニック市長と、ミュンヘンのドラァグクイーン、クリス・ブラックさん

デモそのものは賑やか、かつ平和的な雰囲気だ。しかし一方で、右翼グループがインターネットを通じてデモの妨害を呼びかけるなど、緊張も高まっていた。実際、駅前では少数の右翼グループによる対抗デモもあったが、警察の対応により大きな混乱は避けられた。


嫌悪感覚える人もいるが、重要なシグナルだ


この手の過剰な「カラフル(多様性)」に嫌悪感を覚える人もドイツでは少なくない。また性自認や外見が複雑な参加者たちは、半世紀前なら人権を無視した「キワモノ」「見せ物」といった文脈に置かれる可能性もあっただろう。

しかし、外国人排除などの主張を持つ、極右勢力が大きくなっているからこそ、こういう際立ったシグナルは意味深い。言い換えれば「外見、人種、国籍、宗教など個人的なことは、ほおっておいてくれ。しかし、お互い最低限のリスペクトをしよう」。こういうことを強く主張する必要がある。さもなければデモクラシーが機能しなくなるからだ。

ベランダからデモへの連帯を示す住人もいる

創造性の源泉としての多様性


視点を変えると、2000年代に注目された「創造都市論」では、ゲイや芸術家、外国人などはユニークな背景を持つため、だからこそ都市の創造性につながると論じられた。創造都市論に対して私は異論もあるが、ある一面説得力のある議論だと思う。ドイツでの創造都市に関するランキング調査でエアランゲンはトップになったこともある(この時の調査項目に「ゲイ指数」はなかったが)。

最後に、個人的なことを言えば、私もこの町では「外国人」である。極右勢力が大きくなると、排除や攻撃対象になる可能性もある。したがって、このようなデモが行われること自体、一抹の安心感につながるようなところもある。(了)

参加団体の一つ「右翼に反対するばあちゃんたち」

著書紹介(詳しくはこちら
エアランゲンについてたっぷり書きました

町のクリエイティビティとは?
スポーツは地域のコミュニティを作る

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。