陸続きの欧州では、戦争と難民はワンセット。ドイツの自治体ではウクライナ難民を受け入れているが、日本の自治体でも同様の動きがでている。一方、ドイツでも日本でも、難民に良い・悪いはなく、「人間の尊厳」ということを常に確認する必要がある。
2022年3月21日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
市長たちが動いた
49歳までに当選した市長で構成する全国青年市長会(会長 千代松 大耕氏 / 大阪府泉佐野市市長 )に参加する94市のうち70市が避難民受け入れの意向を持っている。しかし避難民の日本への入国・滞在が容易に実現するための条件整備が必要なことから、千代松市長は衆議院議員の国定勇人氏に協力を求め、今月17日に法務省を訪問した。
国定氏によると、法務省からは「数多くの民間企業や各種団体、他の地方公共団体からも同様の相談、申し出を受けている。 私たちにとっても事実上初めての試みであり、国と皆様との役割分担の整理など、皆さんとも相談しながら我が国全体としての受入体制を構築していきたい 」とのコメントを得たという。
ちなみに国定氏は新潟県三条市の前市長。国会議員はなんらかの常任委員会に入るが、同氏は法務委員会に所属。そのため出入国在留管理庁のある法務省が受け入れ担当機関になる。そんなことから、国定氏は「千代松市長からの相談は、今の立場でできるウクライナ支援はないかと考えていたところだったので、ありがたかった」と述べる。
姉妹都市の市長とも会談
京都府亀岡市のFacebookページによると、市長の 桂川孝裕氏は今月8日、姉妹都市のクニッテルフェルト市(オーストリア)の市長と対談。ウクライナ難民受け入れ準備をしているとの話を聞き、亀岡市でもできることがあれば協力する意向を示している。また、市役所内でも募金箱を設置なども行っている。
ウクライナから遠く離れた日本で、一体なにができるのか?
そんな思いを持つ人も多いが、そんな中、日本の自治体が支援の意向を示すことに対して、筆者は賛成だ。というのもまず、何も示さないことは、ともすれば「関心すらない」という意味にもとれるからだ。それだけに、日本国外へもその意思を示すことが求められるであろう。その上で、避難民がやってきた場合、必要な支援を行える準備が必要だ。
難民は「人間」である─ドイツでも日本でも
難民の発生といえば、2015年の欧州難民危機が記憶に新しい。このとき、ドイツは数多くの難民を受け入れたが、反発する人も多かった。しかし今回は現時点で反対の声をほとんど聞かない。こういう状態に対して、ある50代の男性は「ウクライナ人は白人。2015年のときは肌の色が異なる人が来た」とドイツ側に人種差別の意識があったのではと指摘する。
実際、新聞の論説記事でも、同様の指摘をしつつ、「宗教・性別・肌の色とは無関係に庇護手続きと、人道的な扱いをしなければいけない」(エアランゲン新聞 2022年3月1日付)と難民に「良い」「悪い」はないことを強調している。
一方、難民管理局で20年以上前に働いた経験のある女性は「難民申請者たちの名前はドイツでなじみのないものが多い。それを意図的に利用しているのかどうかはわからないが、同じ人が名前を少し変えて繰り返し申請に来るようなこともあった」と当時のことを述べる。できるだけ多くの支援を受けたいという動機が難民側にもあったのかもしれないが、現場の難しさが浮かび上がる。
ところで筆者は3月18日に、非公開の講演「ドイツの自治体から見たウクライナ戦争」を日本向けに行った。このとき、日本の動きとして全国青年市長会の活動も紹介。参加者の多くが関心を持って下さったが、「日本のウクライナ難民受け入れは、『白人』だから『歓迎』しているのではないか?」という意見も聞かれた。日本社会は「白人」に対して憧れなどの感情を持つ人が多い。
また、人権という点からいうと、日本で難民申請を却下された外国人が、入国管理施設に長期間収容され、人道的な扱いがなされていないことが問題になっている。
「魚の釣り方」を獲得する支援を
宗教・性別・肌の色 などで他人を即座に判断するのは本能に近い。だからこそ、「人間の尊厳」という理性が重要であり、この概念は共存のための人類の発明といってもよい。支援を求める側の人を決してモノのように扱うのではなく、用心しつつも、最低限の敬意を払いながら接することこそが大切だ。そのようなことができる環境づくりや制度設計がカギだ。
他方、「難民慣れ」したドイツの支援を見ていると、難民に対していつまでも「魚を分け与える」のではなく、「魚の釣り方」を獲得してもらうような取り組みも少なくない。すなわちドイツ語の習得や、デモクラシーの理解と参加、職業教育などを行っている。(了)
著書紹介(詳しくはこちら)
地方自治体の国際感覚と多文化共生についても書いています
執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。