イラク出身の女性の葬儀に行くことがあった。私が住むエアランゲン市(人口10万人)は外国人比率の比較的高い町だが、社会的統合がどういう形で進行するのかが見えた機会でもあった。
2016年3月25日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
男女別で葬儀の儀式
亡くなった彼女はドイツ人の夫とアランゲンで知り合い結婚した。葬儀の場所は市内のイスラム・コミュニティセンター。外観は普通の家だが、中は祈りの場になっている。
弔問客は欧州系とイスラム系、そして1人だけアジア系(私である)。欧州系はスゥエーデン出身の知人がいたが、あとはほぼ(狭義の)ドイツ人だろう。亡くなった彼女は亡命してきたため、ドイツに家族はいない。イスラム系の弔問客は、亡命後に知り合った人たちだ。
葬儀が始まるので、センターのなかに靴を脱いであがる。室内は美しいカーペットが敷かれているからだ。弔問客は男女別の部屋へ。欧州系の女性たちも簡単にスカーフを頭にかぶり移動した。まず女性部屋で儀式がとり行われた。
次に男性だけの部屋に棺が運び込まれた。棺の前に弔問客は整列したかのようにきれいに立ちならぶ。司祭のような人が、経文らしきものを唱えはじめると、イスラムの人たちは胸の前で、大きめのボールを持つようなかたちで両手を広げた
キリスト教とイスラム教の墓石が並ぶ墓地
やがてちょっとしたコール・アンド・レスポンスのようになる。司祭らしき人が何か言うと、弔問客がキリスト教でいう「アーメン」のような言葉でこたえるのだ。
「音」だけを聴くとそれほど声量もないが、言葉の内容のせいなのか、宗教儀式の力なのか、私の斜め前に立っていた数名の人は感情が高ぶり嗚咽混じりになっている。
そのあとは一般の墓地へ埋葬に向かった。墓石は整頓されたように並んでいるが、そう広くない一角の墓石群だけが全く異なる方向を向いている。メッカの方に向けてあるのだろうか。
そして棺が担がれてやってくる。
墓穴に収めたと思いきや、イスラムの男たちが、ものすごいいきおいで埋めてしまった。豚肉を食べるのを禁じたのは、中東が暑く、肉が腐敗しやすいということが反映されている面もあると聞く。埋葬方法もそういったことと関連しているのかもしれないと思った。
「並行社会」だった結婚式
実は夫君とは個人的に古い友人で、結婚式の写真撮影を頼まれ、パーティの一部始終をカメラに収めた。このときの会場の様子は、新郎側の客(ほぼドイツ人)は通常の楽しげな雰囲気ではあったが、静かな印象だった。というのも、新婦側の客といえばダンスなどでがぜん盛り上がっていたからだ。そして両者の客同士の交流はほぼなかった。一言でいえば「並行社会」である。
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