ドイツ・エアランゲン市に落語家の三遊亭竜楽さんがお越しになり、ドイツ語による落語を披露。大笑いしつつ、外国語で演じられる落語について、いろいろ考えた。所感を書きとどめておきたい。
2016年7月1日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
使用言語に触発される間と表現
エアランゲン大学日本学部による「落語の夕べ」が先月27日に行われ、落語家の三遊亭竜楽さんがお越しになった。演じられた言語はドイツ語である。面白かったのが「間」。
キーワードになる、あるドイツ語が、絶妙の間で繰り返され、笑いを誘う。ドイツ語だからできた表現に思えた。あとでご本人に尋ねた。
その部分はドイツ語化する時に作られたらもので、日本語にはないものらしい。日本語以外の言語によって演じられるとき、その言語に触発された表現や間ができてくるということなのだろう。
落語の伝承方法は口伝だ。それゆえ同じ演目でも各時代、各噺家によって少しづつ異なるが、使用言語も左右するということである。
竜楽さんはドイツ語以外にフランス語、スペイン語、イタリア語、ポルトガル語などの言語でも演じられ、「三遊亭竜楽の七カ国語RAKUGO」というDVDも出されている。言語によってどんな創意工夫があるのか、とても興味深い。
演じられた場所は講義用の大教室。 約60人の観客の3分1程度は現地在住の日本人だったが、ドイツのお客さんも大受け。たったひとつの言葉(ドイツ語)でも、「間」で「調理」することで爆笑がおこる。これは竜楽さんの芸の力ではあるのだが、「間」のすごさを再確認した。
ドイツの地方で日本文化を伝える大学
「落語の夕べ」(2016年6月27日)のプログラムは次の通り。
- 落語の説明
- 「みそ豆」(ドイツ語)
- 「ふぐ鍋」(日本語 一部独語)
- 日本文化と落語(羽織や手ぬぐいなどの説明)
- 「親子酒」(ドイツ語)
落語とはどういった芸なのか、そして羽織、手ぬぐい、扇子はどう使われるのか。こういった説明のときには、ティル・ワインガートナー博士(アイルランド、コーク大学助教)が通訳した。
同博士は日本の笑いとユーモアについて研究しており、大阪・関西大学に留学中は「アルトバイエルン」というコンビ名で漫才もおこなった経験を持つ。日本文化をこういうかたちでドイツの地方都市で紹介できるのも、ある意味、知的集積がある大学の地域における大きな役割かもしれない。
ひるがえって、高座はテーブルで作られた仮のものだが、竜楽さんが座布団に座られたときの、しゅっとした姿がとても品があって、美しかった。こういうタイプの身体はドイツではあまり見かけない。芸でできた身体なんだろう。同氏の落語に笑い転げつつ、知的刺激を受けた時間だった。(了)
リンク:
三遊亭竜楽さんのウェブサイト
Tillの笑いねっと ドイツ人から見た日本の笑い(ワインガートナー博士 のサイト)
著書紹介(詳しくはこちら)
文化は地域社会に欠かせない。
執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。