一国でしか通用しないアイデアはだめ(最終回)

2020年8月19日公開

長電話対談
島田太郎(東芝デジタルソリューションズ 取締役社長)
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高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

開発者とユーザーが自由にやりとりできる場があれば、様々なモノやサービスが実現するだろう。こういうオープンコミュニティ「ifLink」を開発したのが、東芝デジタルソリューションズ。ドイツ在住経験を持ち、欧州市民社会のコミュニティを見てきた島田太郎さんと話した。ifLinkはシンプルな仕組みだ。それゆえに世界に広がる可能性を持っているという。(対談日 2020年4月17日)

4回シリーズ 長電話対談 島田太郎×高松平藏
■製造業発のコミュニティは次の社会を作れるか?
第1回 GAFAの本質はコミュニティ
第2回 ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」
第3回 新しい価値を生み出すコミュニティの条件
→ 第4回 一国でしか通用しないアイデアはだめ (最終回)


ソリューション提案を拒否した


高松:ifLinkの要はコミュニティですが、島田さんはドイツのコミュニティが示唆的だとおっしゃる(第2回参照)。ドイツのコミュニティの特徴には、例えば「個人にはイニシアティブをとる自由がある」といったものがあります。それをひとつの理想と考えると、製造業の発展型としてのifLinkにこういうコミュニティ文化は難しいのではないかと前回申し上げました。

島田:そうそう。おっしゃることはよくわかる。(笑)
まずね、強調すべきことはifLinkには「機会」がたくさんあるということ。そして、高松さんがおっしゃるようなギャップを超え、イニシアティブがいっぱい生まれると、世の中をがらりと変えるようなことになると思います。今はねiPhoneが出る前に、iPhoneの説明をしているようなものです。

高松:なるほど。よくわかります。

島田:さらに重要な点がありましてね・・・

高松:それはなんでしょう?

島田:ずばり、「ソリューションを提案する」ということを拒否していることなんです。

島田太郎(しまだ たろう)
新明和工業に1990年入社し、ボーイング社等に出向し航空機開発に携わる。その後も複数の会社で要職を務める。シーメンスAG出向時、ドイツ・エアランゲン市に滞在していた。シーメンス関係では、シーメンス インダストリーソフトウェア株式会社 日本法人の代表取締役社長兼米国本社副社長等を務めている。
2018年に東芝入社。執行役常務などを経て、2019年10月から東芝デジタルソリューションズ 取締役社長にも就任。
1966年生まれ、大阪府出身。


高松:それはおもしろいですね。
似たような話があります。私は日本のある自治体から、中心地にしたいところに空き地があるが、どうすればよいかと意見を求められたことがある。「芝生にして、あとはNPOなど有志に任せるといいのでは。そうすれば色んな使い方が開発されていくと思う」とこたえた。芝生プラットフォームです。 しかし、多くの日本の自治体はソリューションを考え、完璧なものを作り込もうとする。

島田:そういうことです。ソリューションはifLinkに参加している「あなた」が作る。あるいはifLinkの中のソリューションのためのコミュニティで作ってもよい。これが重要なポイント。

高松:なるほど「イニシアティブをとる自由」が発揮される状態ですね。

島田:はい。そのための基礎的な枠組みを提供するのが僕たちです。高松さんが言う「芝生」。(笑)
これまでの日本の発想だと、「どうしたいですか?」「はい、じゃあ作ってあげますよ」なんていう感じで、「やり過ぎ感」がある。それでも使う人にとってぴったり要望にはまるわけではない。というか、ほぼ無理。

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)。
「地方都市の発展」がテーマ。各著書では、この対談で触れる「ドイツのコミュニティ」の様子についても具体的な例を挙げて書いている。1969年生まれ。
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高松:作り込みすぎ。ザ・ジャパニーズ製造業ですね。(笑)

島田:だから最初からiflLnkではコンテンツはない。コンテンツはあなたが作る、そしてどのコンテンツがいいかはあなたが投票する。コンテンツを再製造するとか、シェアするというのはこういうことです。

高松:コミュニティのメンバーの活動そのものが重要ということですね。

島田:そうです。ですから、僕たちはいろんな技術や要望、アイデアなんかをつなげていく場を作ることに集中するわけです(第1回目参照)。そういう仕組を作れば、連鎖反応の結果爆発的なことが現実におこってくると考えています。


「人類への貢献」を考えるべきだ


高松:もう少し、つっこんだ話をします。フラットな関係で自由に発言し、自由にイニシアティブをとるようなコミュニティは、ドイツを見ると民主主義がベースにある。そして最初からそういう個人を作ることが教育など様々なところに用意してあります。日本では難しいのでは? 

極右政党が台頭するドイツだが、「これはナチスの考え方だ」と反対運動も多い。(エアランゲン市 2020年3月14日 高松平藏 撮影)



島田:民主主義はましな仕組みだと思っています。しかし、コロナ危機なんかで民主主義に対する重要な暗示が出ている。

高松:確かに。

島田:コロナ以前からドイツでも極右政党が出てきたり、アメリカでもトランプが大統領になり、「アメリカンファースト」なんかが出ている。民主主義としては正しいけど、「大丈夫か?」と言いたくなる。

高松:はい。


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島田:民主主義を強調しすぎると、場合によっては自分や自分の親しい人だけよければよいということになってくる。特に戦争などひどい記憶が薄れるとそうですね。自国第一主義になりすぎると、今度は保護主義に走って、変な話戦争にまで発展する可能性だってある。

高松:そうですね。

島田:それに対して、日本は250年に及んで江戸時代はずっと戦争をしないわけです。 古典芸能の能楽なんかを見ると、戦で殺生を繰り返した武将が死後の世界で苦しむさまが描かれる。精神世界は欧州より悟っているのではないかとも思えます。

高松:なるほど。

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