社会を動かすエンジン
対談
中村友梨香( 元北京五輪・女子マラソン代表 )
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高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
コロナ危機はスポーツの現状をがらりと変えた。現在、スポーツクラブNOBY T&F CLUB のコーチや講演、スポーツイベントなどで活躍する中村友梨香さん(元北京五輪・女子マラソン代表)とスポーツは社会のなかで何ができるかを考えた。対談を3回にわけてお送りする。中村さんは2019年にドイツ・エアランゲンにもお越しになった。最後はトレーナーの立場から何ができるか、そしてドイツに見いだせる「社会のなかのスポーツ」とは何かについてお話します。
対談 スポーツは社会の中で何ができるのか?
第1回「スポーツ」がとまった日
第2回 ドイツの森とスポーツクラブ
第3回 社会を動かすエンジン
スポーツで言語化トレーニング
高松:コーチとして行動することで、他の人の気持ちを明るくし、元気になってほしいというようなことを第1回目でおっしゃっていました。ふだんはどういう人たちと接していますか?
中村:小学生から50・60代まで幅はひろいですね。スポーツを通じて健康になっていただきたいとも思います。しかしそれだけではない。
高松:というと?
中村:陸上は個人競技です。たとえ趣味だとしても、自分と向き合うことになる。練習を通して、新しい考え方を見つけることがあるんです。これを日常にも活かしていただきたいなあと思います。
高松:アスリート時代に経験がありそうですね。
中村:はい。いくら練習してもできないことがある。それに対して、「できない・無理・やめる」ではなく、どのようにすればできるかアプローチを変えてみる。もしくは、できない理由を考える。自分と向きあい整理する作業ですね。練習以外でも日常でもクセのようにできるといいと思います。これがスポーツから気づかせてもらえるものです。
中村 友梨香 (なかむら ゆりか)
北京五輪女子マラソン日本代表
現在、陸上競技のスポーツクラブ「NOBY T&F CLUB」のコーチをしながら、市民ランナーの指導などを精力的に行っている。
中村友梨香 official web site
中村友梨香 ブログ
高松:自分がやった行為について、意義や効果、自分の意思なんかを整理する作業ですね。
中村:そうです。できなかった練習に対して、考えるにしても「体が疲れていた」といえばそれでおわり。(笑)
しかし、その時どう考えていたかが大切。疲れていたから、最初から無理と考えていたとか、体の疲れはあってもどういう精神状態だったかを考える。すると「こういう気持ちのときは」失敗する確立高い。あるいは練習そのものができない。そんな自分のクセを知る機会になります。
高松:そういうのを言語化してきた?
中村:そう。私は結構書いて整理するタイプだった。
高松:ノートが山程あるとか?
中村:ふふふふ。たとえば練習できなくても「もやっ」としていないときは整理がついている。しかし、もやっとしているときは何かある。それを掘り下げる。
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