高松:ノートは現役時代から?
中村:中学から陸上をはじめましたが、先生から試合のあと感想を書くことを勧められた。
高校のときはコーチに練習日誌を提出しました。しかしスペースが限られているので、多くは書けず、整理もきない。そこで提出用とは別に書く習慣ができました。
高松:なるほど。時代劇の悪徳商人が作る「裏帳簿」のような練習日誌のノートがたくさん生まれたわけですね。
中村:はい、そういうことです(笑)。ノートに書くことは引退した今でも続いている。自分に対する理解を深めるかたちで、モヤモヤすることがあると書きます。
高松: 中村流のメンタル整理メソッドを確立すると面白そうですね。
高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)プロフィール詳細はこちら。
反復練習の価値とは何か
高松:ブログを書かれていますが、中村さんは長距離選手だった。それゆえ時々短距離の世界が知りたいと、週イチでトレーニングされているそうですね。ある練習で、短い距離をたくさん走る「根性練習」の話がとてもおもしろかったです。
中村:50m×10本、これを2セット。これを走るということになった。30歳を過ぎてこれはキツイなと思った。(笑)
しかし、ふたを開けると「根性練習」ではなかったんですね。何度も走るうちに楽に早く走れるフォームやスタートの構えを探すのが目的だった。
高松:私、恥ずかしいぐらいへなちょこ柔道家なのですが、柔道に形(かた)というものがある。形とは技をかける側・受ける側にわかれ、その理合を習得するものなんです。これが相手あってのものなんで、例えば、すこし肩の位置がちがうだけで、うまくいかない。へなちょこ柔道家としては、まずは再現性が目標なのですが、何度も練習して最適な動きや位置を探っていく。
中村:競技は違っていても反復練習には同じような意味合いがありますね。
高松:日独比べると、ドイツは技術を教えるとハイおしまいという傾向が強い。たとえば算数。日本は馬鹿みたいにドリルをするでしょ。ドイツは1たす1がなぜ2になるのかという、理屈を教えるおわり。だからあとは計算機使ってもOK。日本の場合、ドリル方式で計算を身体化します。日本の精神論の強さともドリル方式はよくあう。スポ根ものでも圧倒的な量のトレーニングをすることで勝利を得るというストーリがえがかれるのと重なります。
中村:なるほど。
高松:ドイツでも「練習はマイスターを作る」という言い方があって、反復練習の大切さは認識されています。しかし日本ほど重要視されていないように思う。それから、単純な「根性練習」に対して私は疑問をもっているのですが、一方で何が利点だろうと考えることもある。それで拝読した「根性練習」の話が面白かったんです。
中村:そうですね「根性練習」と思うと、効果は下がるでしょう。しかし一番うまく走れる位置を探す目的ならば、気持ち的にも探っている感じで面白い。
高松:「やらされている感じ」はなく、むしろ、モチベーションが高くなりますよね。反復練習に言語化のプロセスをセットすると、なおいのかもしれませんね。
自分たちで作っている、
自分たちのリアルな共通基盤があるドイツ
高松:コーチとしての方法とか考え方についてよくわかりました。もう少し大きな、スポーツのビジョンはお持ちですか。
中村:今スポーツができない環境でしょ。でもスポーツを通じてつながった人たちと、こういう時でも交流がある。こういうコミュニティがあるのは大切です。そしてこれまで体験したことのない状況下で 、私自身が スポーツを通して培ってきた考え方やメンタルコントロールは役に立っていると感じます。また、スポーツをしている人と話すと悲観的な人が少ないんですよ。
高松:なるほど。
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