デジタル時代における新聞の役割と情報哲学の重要性

デジタル空間で誤情報が拡散する現代、ドイツの最新調査「新聞の質 2025」は、新聞が依然として信頼性の高い情報源であることを示した。同調査によれば、85%がフェイクニュースを経験している一方、新聞(紙媒体・デジタル版)で誤情報に接したのはわずか9%に留まる。この結果は、ジャーナリズムの核心である「情報哲学」の実践が、民主主義社会の健全性を支える鍵であることを浮き彫りにしている。
2025年4月9日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
調査が明らかにした新聞の信頼性
4月8日に発表された「新聞の質 2025」は、ドイツ新聞出版社協会がドイツ新聞出版連盟の委託で実施した調査で、2024年11月に約1,000人を対象にオンラインで行われた。
調査結果によると、フェイクニュースの発生源は、ネット空間が78%で最多。特にソーシャルメディア(67%)と動画プラットフォーム(53%)が突出。一方、新聞のデジタル版で誤情報を経験したのは9%のみである。
またドイツでは地域紙の存在が大きく、筆者が住むエアランゲン市(人口12万人)でも町の名前がついた地域紙が発行されている。そういう状況を反映するかのように、地域報道への信頼性も高い。 93%が「地方紙は地域情報の第一の窓口」と回答。ローカルジャーナリズムの強固な基盤が確認された。
さらに有料デジタル購読の増加が見られる。質の高いジャーナリズムへの需要を反映し、デジタル版の定期購読者が拡大したかたちだ。
ドイツ新聞出版連盟のエッガース事務局長は「編集部による事実確認と独立した調査が、情報社会の基盤」と指摘する。調査結果は、新聞が単なる情報伝達ツールではなく、社会の「検証機能」として機能していることを裏付けた。
ファクトチェックの限界と情報哲学の必要性

増えるフェイクニュース対策としてファクトチェックが注目されるが、筆者は、結果への対処ではなく、原因への介入が重要と考える。そのために個人がSNSなどに情報を発信する際に何に留意すべきかという「情報哲学」の学習が重要になってくるだろう。その要は次の3点に絞れる。
- 批判的思考の育成: 事実と意見を区別する能力
- 情報発信の責任: 民主主義社会における個人の役割認識
- 倫理基準の理解: ジャーナリストの倫理的な実践指針である「プレスコード」の学習
現代は誰もが情報の生産者だ。ジャーナリズムの哲学を学ぶことが予防策になる。例えば、学校教育で情報の生産プロセスや倫理を教えることで、フェイクニュースの発生源を根本から減らせる可能性がある。
民主主義社会における新聞の不可欠性
ひるがえって、「新聞の質 2025」の調査では、90%が「自由な報道機関は民主主義に不可欠」と回答した。
新聞は(1) 編集プロセスを経た多角的な報道が偏見のない議論を促進(多様な意見の反映)し、(2)「地方紙はコミュニティの課題と解決策を可視化する(地域社会の接着剤)。そして(3)ソーシャルメディアの過剰な量の情報の中で信頼できる座標を提供(デジタル時代の羅針盤)という役割がある。
特に若年層を含む週間読者数5,450万人(オフライン・オンライン合計)という数字は、新聞が世代を超えた影響力を維持している証左と言える。
30年前に始まったデジタル化の波は、オールドメディアの新聞経営にとって脅威だった。しかし今日、情報の信頼性を担保する「社会インフラ」として進化を続けている。一方、デジタル化の発達の帰結として増えたのがフェイクニュースだ。その発生を減らすには報道機関の努力だけに依存するのではなく、個人レベルでの情報哲学の実践が不可欠だ。民主主義の質は、情報の質が強く影響する。(了)
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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなの