高松平藏の「ドイツの地方紙拾い読み」

バイエルン語協会会長のニクラス・ヒルバー氏は、AIを活用してバイエルン語や州内の方言で音声メディアを作成し、子供向けの学習教材として提供する計画を提案している。

北ドイツ語の影響が強いメディア環境下で育つ子供たちに、地域の言語文化に触れる機会を提供することが狙い。ヒルバー氏は、この取り組みが「退屈な標準化されたドイツ語」の未来を防ぐ最後の機会になる可能性があると指摘している。(エアランゲンの地方紙:2025年2月17日付より)

【解説】
■AIは大量のデータを学習するが、例えば医療分野では「白人男性」のデータが偏って使用されるケースが問題視されている。この記事で紹介された取り組みは、このデータバイアスの逆転発想。AIにあえて方言を学習させることで、地域アイデンティティを守り、多様性を維持する試みである。ドイツの伝統的概念「ハイマート(故郷)」の再解釈とも捉えられる。

■AIは便利なツールだが、生成される文章は画一的で「編集長目線」では「もっとひねれ」と突き返したくなるレベルだ。データバイアスの是正という観点で見れば、方言や医療分野においては大きな価値がある。しかし、人間の独創性や不完全性までもが情報価値としてAIに人為的に作られる可能性も示唆している。技術の進化が我々に投げかける新たな問いだと思う。

■昨年3月、ニュルンベルクの銀行の音声ボット(AI)「アンナ」が、高齢者の方言が理解できずで問題になった。現在、アンナは方言学習中だそうだ。(2025年2月19日 高松 平藏)


高松 平藏 (たかまつへいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。地方の「都市発展」がテーマ。プロフィールの詳細はこちら。執筆・講演依頼などはこちら。このサイトの運営者