ドイツの地方都市では、極右勢力の台頭により「価値観」を巡る闘争が激化している。社会の急速な変化と複雑化がこの現象を生み出した。この状況は地政学的にも広く見られ、アメリカのトランプ現象と共通点を持つ。変化の時代における「倫理的リーダーシップ」の未来を考察する。


地方都市で価値観の戦いが起こっている


ドイツの地方都市を見ていると、都市発展の方向性を決定づける根幹は「価値観」にある。その価値観とは、人間の尊厳、自由、平等、連帯、民主主義といったものだ。しかし近年、極右政党の影響力が拡大し、これらの価値観が挑戦を受けている。特に外国人排斥を訴える極右の主張は、人間の尊厳を否定し、民主主義を脅かすものだ。

こうした倫理的な価値観を否定する状況は、移民の急増などを背景に、社会の複雑化、急激な変化がある。極右勢力に対して、多くの地方都市で市民運動が活発化し、価値観を守ろうとしている。これは一種の「価値観の市民戦争」とも言える現象だ。そしてドイツのみならず、欧州全体でこうした傾向が広がっている。


トランプ大統領の登場の必然性


トランプ大統領の登場は偶然ではなく、現代社会における「複雑化」と「急激な変化」の産物だと考えられる。報道で知る限りでは、人口構成の急激な変化、経済的二極化、そして政治的分極化により、従来の社会統合モデルが根本的な転換点に直面している。これが最近のアメリカ社会の姿だ。欧州と比べると類似点もあるが事情も背景も異なる。それにしても「複雑化」「急激な変化」は共通点である。

こうした混乱期には実用性や効果を優先し、権力の維持の策略や操作に長け、現実に即した柔軟な対応をとるタイプの政治家が登場しているのではないか。複雑化と変化への即効性のある対応が望まれるのだ。トランプ大統領はその系譜に位置付けられるだろう。ドイツの極右勢力でもトランプの支持者は多いのは、そのためだと思われる。

このようなリーダーの台頭は、短期的には一定の成果をもたらすが、国際的な信頼性の喪失など、長期的な悪影響が残る可能性がある。その場合、倫理的でコンセンサスを重視するリーダーの重要性が再認識される契機ともなる。


地政学的な課題


「倫理的でコンセンサスを重視するリーダー像」はどちらかといえば欧州的だ。倫理原則を重視する欧州視線では、トランプ大統領のようなタイプには反射的にネガティブな評価が出てくることが多いのはそのためだ。ドイツの地方都市に見られる極右勢力への反対もそうである。

欧州、とりわけドイツは「倫理的リーダーシップ」の役割を担い続けてきた。これは「西側の価値観」を象徴するものでもある。しかし、現代の急激な変化に対応するには、従来の倫理的リーダーシップだけでは不十分。ドイツのショルツ首相もまたコンセンサス型リーダーだが、多発する国際的な危機や極右台頭などの国内の多様な課題に対し、強力に対応には課題が残る。

1月23日付の報道ではショルツ首相と仏・マクロン大統領トランプ大統領の新政権に対して、自信に満ちた統一された欧州で対応することで合意した。ショルツ首相は「我々は強く、団結している。欧州は身を低くしたり隠れたりせず、建設的で自信に満ちたパートナーになる」と述べ、マクロン大統領も「統一され、強く、主権を持つ欧州を確保するために、我々欧州人、そして我々両国がその役割を完全に果たすことが、かつてないほど重要だ」と強調した。両首脳は、欧州の競争力、繁栄、安全保障を優先事項として掲げ、欧州の利益を守る姿勢を示した。

※   ※

ところで、新大統領のための礼拝が毎回行われるが、マリアン・エドガー・ブッデ司教のLGBTQの人々や不法移民に慈悲を与えるよう求めた説教が話題になっている。説教の内容は欧州的な価値観と重なる。トランプ大統領が不満を示したことは今後の地政学的な展開を暗示しているかもしれない。(了)


著書紹介(詳しくはこちら

都市のクリエイティビティの源は?
スポーツと民主主義の意外な関係

執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サ