ドイツでは2月に総選挙が行われる。このタイミングに合わせて掲載された地方紙の子供向けの記事を紹介する。日本の全国紙主流の報道スタイルに対して、ドイツは地方紙が主流だ。また、政治教育が学校でも行われている。
2025年1月17日 文・高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
地方紙が担う子供向け政治教育 – 『ナヌ!?』ページの取り組み
ドイツでは選挙が迫っており、数週間後には国民が次のリーダーを選ぶことになる。この状況で地方紙がどのようにして子供たちに政治や民主主義を伝えているかを見てみたい。
たとえば、筆者が住むエアランゲン市(人口12万人、バイエルン州)の地方紙『エアランガー・ナハリヒテン』紙では、週末に「ナヌ!?」という7歳から11歳を対象にしたページを設けている。その時々の社会や政治のイシューを解説する。今年1月11日付の同紙では選挙に合わせて、大小4つの記事が書かれている。狙いは民主主義や政治的参加の価値について子供に理解を促すものだ。
最初の記事では、民主主義の基本原則を説明し、民主主義の社会で生きるとはどういうことかを解説している。
<民主主義とは「民衆の統治」という意味だ。人々に何をすべきかを指示する王様はいない。すべての人が自由に意見を表明し、自由に生活し、自由に集まり、情報を入手し、投票すること>。ここでは、民主主義とは投票以外のことの多さがよく説明されている。
また、記事の中でメラニー・クンツェ記者は、選挙戦における政治家の活動を例に挙げ、ポスター、テレビ出演、インタビューといった手法を紹介している。
次の記事では、民主主義の歴史的な背景に焦点を当てている。民主主義が古代ギリシャで生まれ、長い年月をかけて進化してきたことを説明。単に選挙で投票するだけでなく、社会的な責任を担い、積極的に参加することの大切さも強調している。これらの情報は教育的であると同時に、子供たちに刺激を与える内容である。
基本法から現代の課題まで – 民主主義の本質を子供に伝える
さらに、ドイツの基本法(憲法)に関する記事では、基本法が国民の生活を規定する重要な役割を果たしていることを説明している。特に人間の尊厳や表現の自由といった基本的権利が取り上げられている。
<何を読みたいか、デモに参加したいか、といったことを自分で決めることができる・・・しかしデモや何らかの意見表明を行うとき、他人を侮辱してはいけない>。
検閲がないことが語られ、デモという意見表明の手法が書かれている。こうした内容は、子供たちが自らの権利や義務について理解を深めるきっかけとなっている。
「ナヌ!?」では、ドイツの政治システムが直面している課題にも触れている。たとえば、連邦議会選挙では投票率は7割程度だが、それでも低下傾向にある。また外国系の市民を政治的な枠組みに統合する際の困難についても取り上げている。そして、すべての声が尊重されるべきであり、若いうちから政治的な問題に向き合うことの重要性を示している。
また、選挙に直接関係はないが、書籍紹介の小さな記事では、難民についての子供向けの本を紹介している。難民の増加が現在の極右勢力の台頭に繋がった一つの大きな要因になっているが、これを意識した選択だろう。
「民主主義とジャーナリズム」の組み合わせが地方にある理由
このように、「ナヌ!?」のページは、ドイツの地方紙が子供たちの政治教育において果たす役割を示す一例だ。記事は民主主義のプロセスや基本法についての知識を提供するだけでなく、社会的責任についても考える機会を与えている。こうした取り組みを通じて、地方紙は次世代の民主主義を担う市民を育てる役割を果たそうとしている形だ。
ドイツは日本と同様に民主主義の国だ。選挙は民主主義の氷山の一角で、意見形成や選挙以外の民主主義参加など多い。そして地方こそが「生きた民主主義」の現場という考えが強く、州憲法などでもボトムアップ型の民主主義という指針を盛り込んでいる。
またジャーナリズムは民主主義社会に不可欠なものという考え方も強い。ビジネスモデルとしての新聞事業は、ドイツでも課題は多いが、「民主主義とジャーナリズム」というパッケージが地方に必要という考え方が強く見出せる。(了)
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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。 著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。プロフィール詳細はこちら