パリ・オリンピックは競技場に閉じ込める既存のやり方と異なり、都市との融合を世界に見せつけた。


従来、オリンピックは開催国の近代化や発展の象徴とされることが多かった。新設された巨大競技場はその象徴だ。「近代国家の仕上げのインフラ」であるかのように見せつけ、競技場に五輪を閉じ込めるという方向でおこなわれた。しかし、パリは成熟した都市インフラを活用し、パリ全体を舞台とする「都市融合型オリンピック」を実現した。

とりわけ、オープニングはその性質が際立った。セーヌ川を選手のパレードのために利用するだけでなく、地下鉄、下水道、歴史的建造物などの都市インフラも聖火リレーに組み込まれた。

この光景を見て連想したのが、数々のパリの「都市映画」だ。例えば下水道を逃亡に使う「レ・ミゼラブル」、アラン・ドロン主演の地下鉄や街の風景を効果的に使った「サムライ」、ポンヌフ橋を舞台にした「ポンヌフの恋人」など枚挙にいとまがない。これらの映画は主役俳優らと同列に都市そのものも主役にもなっている。同様に今回のオリンピックもパリという都市そのものを主役に据えている。

このように考えると、「都市融合型オリンピック」は、コストが安い方法というのみではない。都市の歴史、文化、日常生活とスポーツイベントを融合させる方法だ。パリは、オリンピックを通じて成熟した都市の創造的活用というモデルを世界に提示している。


欧州都市の文脈に引き込まれたオリンピック


他方、私が住むドイツの町に目を転じると、都市の中心市街地は消費活動のみならず、文化、歴史、コミュニケーション、メディアなど多義的な公共空間だ。市民の生活の中では「社会のリビング」として、機能している。文化フェスティバルはその空間が会場に使われることが多く、都市と融合して、より価値を高めている。

この様子と重ねると、巨大スポーツフェスティバル「オリンピック」が欧州都市の文脈で実現されたともいえる。ただテレビで見る分にはよかったが、実際の現地では空間が広すぎて訪問者の視点に立つと集中しにくいのではないかとも思った。

いずれにせよ、やや大きすぎる期待を述べると、パリ五輪は今後の巨大イベントのやり方にも影響を与えるかもしれない。裏を返せば、従来よくあった、パビリオンや競技場を一から作るのは、いかにも開発国の発想だ。(了)


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町の質を高めるスポーツ


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら