コラム スタートレックからの洞察 vol.1

AIを使いこなすためには、どんな条件が必要なのだろう?

コラムについて:筆者は「地方都市の発展」をテーマにしているが、ジャーナリストという視点からは政治や社会、テクノロジー、文化、教育、過去・未来、さまざまなものを関連づけて考えることがある。この時、SFシリーズ「スタートレック」のエピソードを用いながら話すことが多いのに気がついた。


ChatGPTを初めて使ったとき、スタートレックの船のコンピューターとよく似ていると感じた方も多いのではないだろうか?

船のコンピューターのスペックがどの程度のものかはわからないが、最初のテレビシリーズ(1966-69年)のものは、今日から見ると稚拙さは拭えない。しかし「新スタートレック」(1987-94年)あたりからは、現在考えられるAIのようなものとして描かれている。「スタートレック:ディスカバリー」(2017-24年)では船のコンピューターはより高度な人工知能となり、ゾーラという明確な人格を持つようにまでになる(設定舞台は32世紀)。

コンピューターのスペックは制作当時の科学力、舞台設定による影響などによりまばらだ。またコンピューターサイエンスの専門家から見ると、ChatGPTとの相違点について意見もあるだろう。しかし本稿では、概ね船のコンピューターをAIとみなし、スタートレックの艦隊クルーたちはどう使いこなしているかを見る。

例えば、未知の宇宙現象が発生した時、彼らは原因特定や分析を行う。この際、船のコンピューターと対話しながら、原因を絞り込んでいく。彼らはコンピューターの回答を一つの材料として、人間の独自性を掛け合わせて決断を行う。この「独自性」とは、個々人の体験を元に得られた感情や知識を指す。そしてこれらは洞察力や優れた「勘」をもたらす。その結果、論理的な回答を提供するコンピューターの意見を、場合によっては逸脱する決断を下すこともある。「ストーリー」としてはここに面白さがある。

スタートレックのエピソードでは、こうしたシーンが度々描かれる。例えば、映画「スタートレック ジェネレーションズ」(1994年)では宇宙を移動する、ある現象が扱われる。その進路を追跡するために、巨大な星図を映された船内の一室で、対話式でシームレスで直感的なやり取りが行われている。

ここで重要なのはクルーの資質だ。彼らは高度な知識と豊富な実践を重ねた専門家なのだ。質問時に明確な目的を持ち、さらにAIの回答を客観視、かつ批判する能力を持っている。だから使いこなせるのだ。

ChatGPTが普及してから、多くの人が人間の問いを立てる力と、AIの回答に対する判断力の重要性に気づいた。スタートレックの描写から導き出せるのは、クルーが持つこれらの能力をどのように教育に取り入れられるかがカギであるということだろう。ただ日本の社会や教育では、論理性や批判能力を積極的に修得すべきという考え方は弱い。(了)

補足:1年ほど前に同内容の短文をSNSに投稿した。しかし現在でもまだ有効に思える話だと思い、コラム化した。

高松平藏 (たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。
著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」「ドイツの学校にはなぜ『部活』がないのか」など。当サイトの運営者。詳細こちら