なるほど、これが「ボランティア」が成り立つ欧州の背景

本当にフラットな人間関係のもとで、ボランティア団体が運営されているヨーロッパ

滋賀県守山市の元市長・宮本和宏さんは、昨年9月からパリのOECDの研究員としてボランティアについての研究を行っている。約8ヶ月の滞在で見たヨーロッパと、彼の地から見た日本の問題について話した。前回はパリが理念先行で快適な自転車道を作っていることに触れたが、今回は宮本さんが調査されている欧州のボランティアが成り立つ背景に踏み込む。


ボランティアを調査研究テーマにした理由


高松:OECDの研究員としてボランティアをテーマに取り組んでいらっしゃいます。市長時代からの問題意識が動機ですか?

宮本:まず国交省時代には、様々な地域のまちづくりを支援してきたので、市民参加というテーマには関心がありました。市長になって一番感じたのは、自治会や福祉ボランティア団体の高齢化による担い手不足の問題。自治会は防災・防犯をはじめ、子供・高齢者を支援する家庭の声掛けや見守り活動、地域での絆作りに伝統行事の維持など多くのことを行なっています。これらの役割は行政だけでは不可能で、またいくら資金があっても解決できない。この危機的状況は、私の主観だけでなく客観的にもそうだと思います。

高松:なるほど。

宮本:さらに、日本全体を見るとNPOの数も減少しており、共助や互助の仕組みが課題となっています。このままでは、国の財政難により公共サービスが十分に提供できず、その上、地域の皆さんのお互い様同士の助け合いが弱まってくると、日本社会自体が本当に住みにくくなってしまう。そういう懸念を覚えたので、ボランティア活動や、共助・互助をどうやって持続的にしたらいいのかを、テーマとして取り組みたいと思いました。

高松:別の言い方をすると、地域の結びつきが弱まっている?

宮本和宏(みやもと かずひろ)
滋賀県守山市(人口約8.5万人)の元市長。1996年に現・国交省に入省。2011年に市長に当選し、3期12年務めた。2023年2月の任期満了で引退し、同年8月からパリへ1年の予定で拠点を移す。OECDの研究員としてボランティアに関するリサーチを行っている。市長時代に自転車首長会の立ち上げに関わる(現在、400以上の市区町村の長が参加)。

宮本:はい、そうですね。農村地域では伝統行事やお祭りなどは農業に関連しています。しかし、農業自体が経営的に厳しい時代に入り、国も大規模農家に集約化を図る方針。これにより、畦の草刈りや川の掃除といった農業を通じた地域の共同活動の継続が課題となります。核となる人々が高齢化し、農業の質も変わっています。これらの要因により、昔のような地縁の結びつきが弱まっていると感じています。また、市民活動やボランティア活動も同様の課題があると思います。

高松:お祭りができるか否かはコミュニティが元気かどうかの指標ですね。ドイツでも村単位でビール祭りがあります。私たち外国人から見ると「ビール祭り」ですが、教会関係の行事や、伝統的な儀式があり、コミュニティのお祭りなんですね。「どういう意味があるの」って聞くと、コミュニティの繁栄や平和、皆の健康の象徴なんですよね。


不平等社会とボランティアの関係から見える日本への警鐘


宮本:世界のトレンドを研究する中で、分かったことの一つが、不平等とボランティアの関係です。社会の不平等さが広がれば広がるほど、ボランティアする人が減る。逆に公平な社会であればあるほど、信頼関係があってお互い助け合うということです。

高松:とても興味深いですね。

高松平藏 (たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリスト。エアランゲン市(人口約12万人 バイエルン州)を拠点に、地方の都市発展を中心テーマに取材、リサーチを行っている。執筆活動に加えて講演活動も多い。著書に「ドイツの地方都市はなぜ元気なのか」「ドイツの都市はなぜクリエイティブなのか」など。当サイトの運営者。詳細こちら

宮本:この相関関係が見えた時、日本について「あっ、これは良くない」と思いました。今の日本でボラティリティが下がっている傾向は、格差が広がっている象徴で、警告と見ることができるではないかと。格差の是正はやらなければいけないことだと思います。

高松:なるほど、これは重要な指摘です。


簡単に人と人がつながって活動できる欧州


宮本:パリに来る前に調べて、驚いたことがあるんですよ。日本は憲法上、結社の自由が認められていますが、実際、法律上は1998年のNPO法制定まで公益法人(財団法人と社団法人)以外は作れなかった。各担当省庁等しか認可できず、自由に組織が作れない社会だったのですが、ヨーロッパは違いました。

高松:そうでしょうね。

宮本:フランスは1901年に二人以上で作れるアソシオン法。ドイツは7人以上で「フェライン(登録社団)」、これが1800年代半ばに制度化。イタリアは第二次世界大戦中の1942年に制度化され、3人以上で結社ができます。

高松:はい。

宮本:日本のNPO法が使いづらい制度となったのは、背景にオウム真理教の問題などもあったと思いますが、それにしても組織を作りづらい。また、設立後も決算や公開性が求められていて、やるべきことが多く、維持が大変です。活動を適切にやるには非常にマンパワーが必要で手間のかかる制度になっています。

高松:それに対して、ヨーロッパはどうですか?

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