ドイツといえば、ミュンヘンで毎年行われるビール祭り「オクトーバーフェスト」が有名だ。しかし、ビール祭りは各市町村で行われ、その起源も様々だが「地域のお祭り」で、ビールがついてまわるので外国から見ると「ビール祭り」に見える。そう考えたほうが妥当だろう。そして祭り自体はそのコミュニティの「健康バロメーター」でもある。
(月刊「健康づくり」2022年8月号寄稿分を元に追記・再編 時系列は執筆当時のもの)
2023年5月30日 高松 平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
にぎやかな祭りは健康の証?
筆者が住む人口11万人のエアランゲン市(バイエルン州)でのビール祭りが6月初旬、2年ぶりに開催された。12日間に及ぶもので、春夏秋冬の「四季」に加えた「五番目の季節」と呼ばれている。今回はこのビール祭りを健康バロメーターとして見てみよう。
まず、開催できること自体が「地域の健康」を示している。というのも、地域の人口構成が極端に高齢化しているとお祭りが開けなる可能性もあるからだ。
開催中、夜となれば若い人を中心に大勢がやってきて、音楽と共に大いに盛り上がる。この人たちは、こういう場所へ行く友人や恋人がいて、そして体力があるのだ。彼らが楽しむ様子はビール祭りの典型的な「絵」として写真に収められる。
あらゆる社会的組織が集まる機会
ビール祭りは飲んで騒ぐだけの場所ではない。
祭りは友人・家族といったグループをはじめ、非営利組織、政治、職業、経済団体など「あらゆる社会的組織」が集まる機会だ。SNSでは政治家や団体のリーダーなどは、集まった時の集合写真をせっせと投稿している。
親しい人同士はすぐに近況交換が起こる。だが同じグループ内でも「顔は知っている程度」の人や、「初めて会った人」もいるものである。そういう人と知り合い、親しくなる機会でもあるのだ。これがグループの一体感を高めることになり、その総体が町の元気につながる。
またドイツの都市は「赤の他人の集まり」と言うことが大前提。だからこそ、常に「知り合うきっかけづくり」が都市の課題で、文化政策などはその代表格。そう言う事情を鑑みると、ビール祭りの価値が理解できるだろう。
ちなみにドイツの会社では「仕事の後で一杯」とつるんで行くことはほとんどなし。しかし期間中の決まった日は、伝統的に午後から会社を閉めて職場の希望者で祭りに向かう。
スポーツクラブも集まる
例えば「非営利組織の集まり」にスポーツクラブも該当する。
スポーツクラブのメンバーは老若男女。試合に出場するのを楽しんでいる人から、健康のための運動をしている人まで、目的や身体能力にあわせたスポーツを行う「スポーツコミュニティ」である。
だからビール祭りともなると、チームや普段ともに体を動かしている仲間たちと祭りに集まるのだ。チームによっては試合のときに円陣を組んで独自の文句を叫んで士気を高めるが、ジョッキーを片手にそれを行うこともある。ともあれ、スポーツクラブが社会的なコミュニティであることを雄弁に語っている一幕である。
そのほかにも、様々なコミュニティがあるが、まだ日の高い時間に筆者が訪問したときは、隣には20人ほどの高齢者のグループがいた。何らかの趣味のグループのようで、ロゴが入ったおそろいのポロシャツを着て、ジョッキー片手におしゃべりに花を咲かせていた。
そのほかにも、小さな子供たちのいる「家族の日」や「シニアの日」も会期中に設けられている。
このように、祭りの様子を見ると、地域における人々の社会的な健康が透けてみえてくるのだ。この祭り、会期中100万人程度の人が訪問する。
ビール祭りとコロナ
この町の2022年のビール祭り、当初からコロナの感染拡大が指摘されていたが、終了後は見事に増加。7日間の10万人あたりの新規感染者数は祭りのあと1000人を越えたのだ。
ただ、無症状の人が多く、入院が必要な人も少ない。背景にはワクチン接種の効果などがあると指摘されていて、コロナ感染の質的な変化がある。
それにしても祭りは精神的・社会的健康を促進させてくれるが、コロナ感染とどう対峙するか、という課題が残る。(了)
高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら)
ドイツの地方都市は結晶性の高さが魅力だ
執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。