ロシアの姉妹都市のロックバンドがドイツ姉妹都市を訪問(アーカイブ写真 2011年11月25日 高松平藏撮影)

ウクライナとロシアの緊張が続くなか、ドイツ地方都市の市長がロシアの姉妹都市と対話をこのほど行った。地方の姉妹都市同士の対話で国際的な問題の解決につながるわけではない。しかし国境を越えたローカルの関係性のなかで重ねられる対話は、信頼と相互理解につながる

2022年2月23日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


ドイツのエアランゲン市(人口11万人、バイエルン州)の市長フロリアン・ヤニック博士は、今月17日にロシアの姉妹都市、ウラジミール側と30分にわたり、オンライン会談。会談に応じたのは両市の「討論フォーラム」のモデレーター、ヴィアチェスラフ・カルトゥヒン氏。

同市によると、ウクライナ・ロシアの問題に関して、会談ではお互いに見方が異なっていることが明らかになった。しかし、その見解を相互に納得させるのではなく、とにかく連絡を取り合うことを約束。今後も両市は相互の信頼と良好な関係維持のために、お互いの地域でできることを行うことを合意した。


国同士の関係が困難なときほど
「インターローカル」な関係に希望がある


両市は冷戦中の1983年に姉妹都市提携結ぶ。和解と国際理解を目的に長年、市民のパートナーシップを構築してきた。普段から一般市民のほかに、地域のジャーナリストなども行き来する。若者のロックバンドが相互の町でライブハウスで演奏することもある。またエアランゲン市も姉妹都市提携以来、同じ担当者がついている。

1995年にはウラジミールに「エアランゲン ハウス」をオープン。エアランゲン市の市民教育機関からスタッフが長期間赴き、ドイツ語のコースを準備した。それ以降、若者を中心にウラジミールの市民がドイツ語を学んでいるという。

今回のオンライン対話のチャンネルは、2017年にはクリミア危機とウクライナでの武力紛争による緊張の高まりを背景に作られた。

エアランゲン市の文化局の職員とウラジミールのロックバンド。ブルーの服の若者に挟まれて立っている女性がブリギッテ・アスムス副市長(当時)。滞在期間中、市内で演奏も行った。( アーカイブ写真 2011年11月25日 高松平藏撮影 )


姉妹都市が国際問題を解決するのは難しいが、国境を越えた「インターローカルな関係」を作ることで、市民同士の顔が見える国際対話が可能になる。こういう対話は多文化理解、国際感覚、国境を越えた具体的な人間同士の信頼関係といったものにつながる。

また国際的な事情が悪化したときに、姉妹都市関係をあっさり切るのは簡単だ。日本を見ると、2018年に大阪市が慰安婦像をめぐり、サンフランシスコ市との姉妹都市関係を解消したケースがある。しかし、こういう時ほどインターローカルな関係は堅持すべきことであり、そこに希望が残る。

もう一歩踏み込み、いささか青臭い理想をいえば、国境を越えた無数の「インターローカル」な関係があると、世界の安定にも一役買うのではないか。(了)


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地方の都市内で多文化共生をどうすすめているのか? 


執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら