志ある市民10人と 町を俯瞰する市長
長電話対談
国定勇人(前三条市長)
×
高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
ドイツの地方都市の発展を見ていると、市長の役割もかなり大きい。では日本ではどうなのだろう?2020年に現職を退き、「日々の地方のリアリティ」から少し距離を取れる状況になった前三条市の市長、国定勇人さんと地方自治体における首長の役割について話した。第1回目は地方都市の「成功」の尺度。カギは「51対49」にあるという。(対談日 2021年4月12日)
※対談当時の状況をもとにすすめています。
全6回 長電話対談 国定勇人×高松平藏
■町は首長次第で本当に変わるのか?■
▶ 第1回 志ある市民10人と 町を俯瞰する市長
第2回 市長は大統領よりも力がある
第3回 日本の公務員がジェネラリスト指向である理由
第4回 地方における公共性と個人主義について考えた
第5回 世界に伍する一流の地方都市にするには?
第6回 文化政策で地方都市を磨け
目次
10万人都市の市民との距離
高松:ドイツの市長さんに話をきくと、理念や哲学のような話がいろいろ出てくる。では日本の市長さんはどうなんだろう? そう考えたときに、何度か訪問した三条市(新潟県、人口約9万4000人)と国定さんの顔が浮かびました。
それで、昨年辞められたと聞き、これはチャンスだなと。現職中だと生々しい日常の中におられますが、すこし距離をおいた状態で「市長」とは何かお話できればと思います。
国定:よきタイミングでありがとうございます。
国定 勇人(くにさだ いさと)
2003年に総務省から新潟県三条市に出向。2006年に一旦総務省に戻るが、三条市長選に立候補し、当選。2020年9月に辞職。現在、衆院選立候補に向けて準備中。1972年東京都千代田区神田神保町生まれ。
オフィシャルブログ:この地に尽くす!〜国定勇人(くにさだいさと)の日記〜
高松:「市長」の姿として印象的なのが、三条マルシェ※にお邪魔したときです。市民の方と、気さくに話されていたこと。声をかけたり、かけられたりされていた。
※三条マルシェ:市街地に露店を並べた1日限りの歩行者天国。年間5-7回程度行われ、訪問者数も多い。そのため市街地活性化プログラムとして、他府県からの視察なども多い。
公式ホームページはこちら
それから、ロックバンド「クイーン」のフレディ・マーキュリーを描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が話題になっていたころ、市内でイベントを行った若者が扮装して、その時の募金や売上を寄付しに市長室まで来られた。市民の方との関係がとてもいい感じでした。
【関連記事】クイーンのイベントのチャリティーで2万円を三条市に寄付(新潟県央の地域ニュースサイト「ケンオードットコム」より)
国定:町に対してポジティブに考えている人を勇気づけることも市長の仕事です。10万人都市に、ある分野で志のある人が10人いればその町のその分野は変わりますからね。
高松:映画イベントの寄付額は決して、大きいものではありません。でも仲間内で盛り上がって「市長さんに会って、渡そうぜ」という雰囲気があるのはいい。
国定:まさに、ありがたいことです。そこは地方の中小都市の良さです。100万都市では絶対できない。
高松:しかし、町に対する情熱があっても、意見の方向としては反対の人も当然います。
国定:そういう人とも普通に話はしますけど、SNSなどで発信するような一種の「ショーアップ」はしません。周りの人たちに「市長はこういう方向も良しとするのだな」という風に思わせてしまいますから。
高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
昨年は次の2冊を出版。「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)、「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」(2020年11月)。前者はスポーツ・健康の観点からみた都市計画や地域経済、行政・NPOの協力体制について。後者はドイツの日常的なコミュニティ「スポーツクラブ」が都市社会にどのように影響しているかについて書いている。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら。
高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら)
高松:対応の差があると、批判を浴びるのでは?
国定:もちろんそれはありますが、そこはドライに判断しています。私と正反対の方向性を望むならば、選挙の洗礼で私を落として下さいということです。私の人事権を握っているのは有権者ですから。
地方はリアリズムだ
高松:生まれも育ちも東京の神田とのこと。2003年に総務省から三条市に出向されたのが地方との初めての接点だと思います。そんな中、翌年、新潟・福島豪雨(2004年)に見舞われ、災害対策本部長として陣頭指揮を執られました。
国定:はい。普通にはない体験でした。住民として行政との距離感、期待度、信頼度が比較できないぐらいに緊密。それに重きを置かれているのを実感しました。
高松:東京とどう違いますか?
国定:もっとも異なるのがリアリティです。地方行政はその土地のリアリズムの中にあります。行政というのは、9割程度は目をつぶってでもできる仕事です。法律で規定された枠組みの中で手続きなどが決まっているからそう言えるのですが、翻って言えば、そのルールを逸脱すると、とんでもないことになってしまいます。
高松:なるほど。
国定:ビジョンなどの付加価値は残り一割のところなのです。市町村はリアリズムで動かなければダメですね。それに対して、国はリアリズムを追い求めようと思っても無理です。とにかく忙しいし、そんな状況ですから、仕事で会う人もほとんど東京の人を中心に限られてしまいがちですし、情報も東京中心です。
市長は地方を俯瞰するためにいる
国定:総務省に居た時は、国家公務員として国民のために仕事をしていました。三条市に出向した時は、国民を構成する市民のために仕事をするのです。でもね、決定的に違うのは、国家公務員の時の「国民」というのは、あくまでも「漢字二文字の国民」。だから最終的には国の政策は、机上の空論に陥りやすくなる。
高松:それに対して地方では違う。
ページ:1 2
次ページ 文句ばかり言われてきた「市長人生」だったが・・・