高松:ヨーロッパ的であり、ドイツにその典型が見られるということかな。外国人目線でいえば、社会都市プログラムはドイツの伝統的な都市的発想を引き継いでいるよう見えます。だからこのプログラムを知ったとき「いまさら感」がとても強かった。
井澤:基本的にヨーロッパの都市はキリスト教の影響下にあって、教会があって広場があって、それに基づいた生活様式がある。そこから現代に確立されてきた暮らし方や生活の質のあり方の歴史があるんでしょうね。
「滞在の質」という考え方
高松:いささか「教科書的」ではあるのですが、ドイツの公共空間、具体的には中心市街地の議論を聞いていると、大切な要素として3点が挙がる。
井澤:ほう。ほう。ほう。先に三つ、頷いておきます。
高松:はい(笑)。すなわち、「アクセシビリティ」「多様なオファー」そして「滞在の質」という3つの条件です。ベンチや街路樹が多いとか、第1回目でとりあげたオープンライブラリーなんかは「滞在の質」を高める要素ですね。
ドイツにはない言葉「まちづくり」
井澤:「滞在の質」、いい言葉ですね。リモートによって、地域(居住地)に滞在する時間が増える。すると、地域の質、つまり暮らしの質を高めていくことが大きなテーマになります。すると公共空間での「滞在の質」は大きなメリットをもたらしますね。老人ばかりでなく、若い人も地域のためにいろいろ時間を割いてくれる機会が増えるかもしれない。
高松:そうでうね。日本に「まちづくり」という言葉がありますよね。私の理解では戦後からいろんなコンテストがあって、現在は住民参加で作っていくという意味で使われる事が多い。ですから「滞在の質」を高めると、まちづくりに参加する人が増えるかもしれませんね。
井澤:ドイツなんかはどうですか?
高松:まずね、「まちづくり」に直訳できる言葉が見当たらない。それから「下からのデモクラシー」を重視していることもあり、最初から市民参加が大前提になっている。裏をかえすと、今おっしゃったような可能性というのは日本の特殊性としてのコロナ・インパクトかなというふうに思いました。
「自宅で仕事」は町をかえるか?
井澤:東京の話ですが、緊急事態宣言中と解除されあとも、リモートの率が同じ。4人に一人が自宅で働いている。この率が上がってくると、オフィス面積がそれほど必要なくなるので、10~15%ぐらいの空室率になるんじゃないかという推計がありました。富士通なんかがすでにそういう動きを見せている。都心もがらがらになりますよという論調の論文も散見できる。
高松:住宅もかわりそうですですね。
井澤:はい。狭い賃貸マンションで在宅リモートワークというと、子供が騒いだり、配偶者もいるからオンライン会議で喋りづらいとかね。それなら、週1,2回程度の通勤を前提にするなら、会社から多少距離があっても中山間地域のようなところで、広い一戸建ての需要が増えるのではという話もありました。まあ、実際はそんなに大きな流れにはならないでしょうけど。
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