対 談
中村友梨香( 元北京五輪・女子マラソン代表 )
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高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
オリンピック開催・中止に揺れるなか、元北京五輪・女子マラソン代表の中村友梨香さんと、アスリート教育について話した。現在スポーツクラブNOBY T&F CLUB のコーチや講演、スポーツイベントなどで活躍するほか、大学でスポーツ社会学を学んでいる。(対談日 2021年5月25日)
日本・ドイツでのオリンピック報道
中村:最近、オリンピックの開催に、賛成か反対かという議論が日本で盛んです。
高松:どんな意見が目につきますか?
中村:「こんなにコロナでみんな自粛してるのにオリンピックだけやるなんておかしい…」というものが印象的。一部で、代表に決まった選手に辞退した方が良いって言う声もあります。
高松:なるほど。
中村 友梨香 (なかむら ゆりか)
北京五輪女子マラソン日本代表
現在、陸上競技のスポーツクラブ「NOBY T&F CLUB」のコーチをしながら、市民ランナーの指導などを精力的に行っている。
中村友梨香 official web site
中村友梨香 ブログ
中村:日本は開催国。コロナもなかなか落ち着かない。だから、そんな声が上がると思うのですが、選手はとても複雑だろうなと思います。ドイツではどんな様子ですか?
高松:この1年ぐらいを見ていると、日本ほどオリンピックの報道は目にしません。毎日チェックしている地方紙だと、さらに少ないです。
中村:ああ、やはり。
高松:しかし、あくまでもニュース検索ですが、全国レベルでのメディアでは最近増えていますね(5月25日現在)。「多くの日本人がオリンピック開催に反対している」というものと、それに付随した予防接種の話題が目に付きます。
高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
昨年は次の2冊を出版。「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)、「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」(2020年11月)。前者はスポーツ・健康の観点からみた都市計画や地域経済、行政・NPOの協力体制について。後者はドイツの日常的なコミュニティ「スポーツクラブ」が都市社会にどのように影響しているかについて書いている。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら。
中村:選手のニュースはどうですか?
高松:もちろん、予選のニュースもありますが、「日本人がオリンピック開催反対」の記事に埋もれているような印象が強いです。
中村:日本の報道もいろいろありますが、「私たち市民は我慢してるのに・・」「医療体制は大丈夫なのか?」と開催を懸念する声が目立つように感じます。
「オリンピックが全て」という価値が大きい
高松:確かに、開催可能か不可能かという議論も大切ですが、ご承知のようにオリンピックじたい、政治や経済、ナショナリズムなどに左右される歴史があります。オリンピックに出場経験のあるお立場としては、どう映っていますか?
中村:現役時代、「オリンピックが全て」に近い価値観も持っていました。「最高を目指す=オリンピック」、それが当たり前でスポーツの最高峰と思っていた。
高松:しかし、現在は違うと・・・
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