地域の活性化という課題は、90年代半ば私がジャーナリストとして活動を始めた頃からあった。一方、ドイツの地方都市の元気な様子を見て、人々の過処分時間がきちんとあるかどうかがひとつの大きな理由に思えるのだ。
2021年3月15日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
これは旧日本軍にもあった「日本病」だ
事務系の職場に多いと思うのだが、午後3時すぎたあたりに「悪いけど、これ今日中にお願いできる?」ということが多々あるのではないか。分量からいえば、定時までの数時間でできるはずがない。頼まれた人は結局、残業や持ち帰りなどの方法でこなす。これは旧日本軍を思わせる「日本病」といってもいい。
旧日本軍は、物資の適切な配給をすべき兵站(へいたん)を無視。これが敗戦の理由のひとつとされる。
作業量を計算できず、「今日中にお願いできる?」という頼み方は、全体の時間とプロセス管理という観点からいえば、場当たり的で旧日本軍と同質性を感じる。きつい言い方をすると、とても頭が悪い。
下請けの会社でも、無理難題に対しては「この条件、この納期なら、請け負っても良い」と「ケンカ」をすることがある。しかし社内で「定額働かせてホーダイ」が常態化していると誰かが壊れるまで続くだろう。
ドイツでも「今日中にお願い」が全くないわけではない。しかし定時退社を前提にスケジュールを組むのが一般的だ。それでいて、日本よりも一人あたりのGDPは高い。
市議の仕事はボランティア
視点を変える。
無理のない働き方ができてこそ、自分が自由な使える時間が確保される。これによって家族と過ごす時間はもちろん、運動や学習、趣味などに使うことができる。また友人や仲間との社交、NPOや地域でのボランティア、社会・政治活動などに使う人も増えるだろう。
小ぶりながらも元気な都市が多いドイツで取材を始めて、すぐに気がついたことがある。それは、人々の「家庭」「職場」以外での活動の多さだ。市議ですら職業ではない。いわばボランティアの政治活動。だから議会は仕事が終わった平日の夕方に行われる。日本企業の駐在の方には「ドイツには一日が2度ある」と感想を漏らす人もいる。
これを鑑みると、日本の地域の弱体化は、人々の「家庭」「職場」以外の活動の少なさが大きな原因のひとつではないかと思う。だから地域活性化のために補助金をじゃぶじゃぶ投入しても、効果が出にくいのは当然ではないか。
働き方改革なども、過処分時間の増加による、行動と社会的なインパクトをセットで考えるべきだろう。
そして「これ今日中に頼める?」という依頼は慎重になるべきだ。一回の行為としてみると小さなことだが、この積み重ねは持続可能な労働環境とは言い難い状態を作る。そしてさらに視野を広くして見ると、地域社会をどんどん脆弱なものにしていると思う。(了)
高松平藏 著書紹介(詳しくはこちら)
「職場」以外に使える時間が多いと、地域社会で人々はどう動くか?拙著を通じて垣間見ることができます。
執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
2020年には「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (学芸出版 3月)、「ドイツの学校には なぜ『部活』がないのか 非体育会系スポーツが生み出す文化、コミュニティ、そして豊かな時間」(晃洋書房 11月)を出版。一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。また講演や原稿依頼等はこちらを御覧ください。