ドイツから米国へ、まるで大河ドラマ

公開日 2020年12月10日

長電話対談
西村仁志(広島修道大学教授)
× 
高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)

持続可能性やオーガニック運動は、欧州発の「緑の思想」とでもいうものが影響しているようだ。1960、70年代にアメリカで活躍したアラン・チャドウィックという園芸教育家がいる。彼の活躍を見ると、「緑の思想」がドイツ、イギリスを経由してアメリカに伝わった構図が浮かび上がる。このほど、チャドウィックについての論文をまとめた西村仁志さんと話した。第3回目は緑の思想がどのように伝播したかを見ていく。(対談日2020年5月21日)

4回シリーズ 長電話対談 西村仁志×高松平藏
■欧州からアメリカへ伝播する「緑の思想」
第1回 アメリカ社会の肌触りとは?
第2回 頑固じいさんに若者が心酔した
第3回 ドイツから米国へ、まるで大河ドラマ
第4回 若者の反抗から「持続可能性」へ


ドイツ発の「緑の思想」


高松:ヨーロッパには「緑の思想」とでもいえるものがあって、アラン・チャドウィックの行動がその伝播のひとつと見えた。これが、とても興味深いんです。

西村:ヨーロッパで発祥し、世界に広がった思想や社会運動はいろいろありますね。キリスト教青年運動であるYMCAやボーイスカウト運動が有名でしょう。生活協同組合もかな。

高松:そうですね。

ドイツのハイキングやワンダーフォーゲルの文化は都市との対比の中でできてきたともいえる。(写真はドイツのハイキングをする人々)



西村:それからアウトワード・バウンドという、イギリス発祥の冒険教育があります。もとはクルト・ハーン(1986-1974)というドイツ人の教育実践家の思想によるものでドイツ発祥の冒険教育運動です。

高松:お、だんだん「ドイツ」が出てきました。日本にも日本アウトワード・バウンド協会という公益財団法人があるようですね。

西村:はい。

高松:さらにチャドウィックとドイツをつなげるのが、ルドルフ・シュタイナー(1861-1925年 神秘思想家、哲学者、教育者。人智学の創唱者)だったとか。

西村 仁志(にしむら ひとし)
広島修道大学人間環境学部教授。京都YMCA勤務を経て、1993年個人事務所「環境共育事務所カラーズ」を開業。現在も代表を務めている。自治体や企業、NPO等の環境学習・市民参加まちづくりのコーディネートや研修会の企画運営などを行ってきた。同志社大学大学院総合政策科学研究科博士課程(前期)修了。博士(ソーシャル・イノベーション・同志社大学)。2012年より現職。アメリカ・ヨセミテ国立公園へは1995年以降毎年通っている。
2018-19年、一年間にわたり在外研究でUCサンタクルーズ滞在。この時の成果として執筆した論文「アラン・チャドウィックの菜園プロジェクトとカリフォルニアのオーガニック運動への影響」(広島修道大学学術リボジトリ PDF閲覧可能)が今回の対談のきっかけ。著書に「ソーシャル・イノベーションとしての自然学校: 成立と発展のダイナミズム」など多数。1963年京都生まれ。


西村さんが、園芸家アラン・チャドウィックとオーガニック運動についてまとめた論文。PDF閲覧可


西村:はい。

高松:シュタイナーが生きた時代、「都市の発展」という観点からいえば、急激に進んだ工業社会化や都市へのアンチテーゼという括りができる動きが当時あったと理解しています。自然の治癒力に着目したクナイプ療法や都市部の市民園「クラインガルテン(小さな庭の意)」などもこの中にいれてもよい。

高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。「地方都市の発展」がテーマ。著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。
最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)。スポーツに対する関心はもともと薄かったが、都市を発展させているひとつに「スポーツクラブ」があることに着目。スポーツの社会的価値を展開している様子を見て、著書につながった。また、同書ではスポーツ・余暇・運動インフラとしての森にも着目しているが、その背景にはドイツの「緑の思想」とでもいうものがある。これが西村さんの論文に興味を持ったきっかけ。
2020年11月末に新著「ドイツの学校には なぜ 『部活』 がないのか」発売。1969年生まれ。プロフィール詳細はこちら


著書「ドイツのスポーツ都市」(学芸出版)

ワンダーフォーゲル、ドイツ体操のヤーン、森との関連性などにも触れている。こちらに著書の詳細あり
また書影をクリックするとAmazonに飛びます。


西村:なるほど。

高松:世代的にシュタイナーより少しあとになりますが、青少年による野外活動、「ワンダーフォーゲル運動」がカール・フィッシャー(1881-1941年)という学生よって始められた。これも都市への反発や、文明化しすぎたものに対するアンチテーゼがあった。若者の反乱でもあり、そして森へ向かいました。


シュタイナーへの心酔


高松:フィッシャーはとてもカリスマ性があった。それでね、その行動様式が実はドイツの体操文化、今のスポーツクラブにつながる「トゥルネン(ドイツ体操)」を作ったフリードリッヒ・ヤーン(1778‐1852)の影響を受けているらしい。

西村:はい。

ページ:  1 2 3

次ページ “チャドウィック? はい、芝居がかっていました”