2020年11月11日 文・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)
陶器工房で見つけた文様
ヘルツォーゲンアウラッハという町がある。人口2万3000人ほどの小都市で、同市の市街地へ赴いた。筆者が10年ほど使っていた大型のコーヒーカップがついに壊れたので、同市街地にある陶器の工房兼ショップを訪ねたのだ(=写真及び動画)。
店内には美しい陶器が並ぶ。ふと目についたのが壁に飾ってある木製の「文様」だ。一瞬、陶器にスタンプのように押して、皿やら壺に文様をつけるものかと思った。しかしそうでもないようだ。
陶芸作家で店主の女性に聞いたところ、布に文様をつけるためのものだという。
この町、中世以来、もともと布が地場産業だった。「織工通り(トゥフマッハーガッシェン/Tuchmachergässchen)」といった通り名などもわずかながら、今も町の中に残っている。
1800年までのあいだ、人口の半分がこの分野で働いており、近郊のニュルンベルクへ布を供給していた。やがて織物分野は衰退するが、代わりにサンダルや靴産業にシフトしていく。
当時の「オリジナルの文様」の木片を陶器工房で引き取ったとというわけだ。
実はグローバル企業の本社がある
ところで同市は近隣から毎日17,500人が流入する。なぜなら雇用吸収力があるからだ。シェフラーという世界で知られる自動車部品のサプライヤーの本社がある。これが大きい。
そして、さらにスポーツ分野のグローバル企業2社が本社を構える。ここには先の文様と地続きの歴史がある。
創業者はかつて織物業を営んでいたクリストフ・ダスラーの息子たちで、1920年に靴の製造会社を始めた。後に経営方針があわず解散。その一社は創業者アドルフ・ダスラーの愛称「アディ」と名字の「ダスラー」をつなげた「アディダス」である。そして、アドルフの兄が創業したのがプーマだ。
地方分権型傾向の強いドイツだが、強い中小企業も大企業の本社も分散。「小さな経済拠点」がある。同時に町の歴史と強固に結びついているケースも数多く見られる。
それを支えているのが地域ミュージアムや、自治体の義務になっているアーカイブだ。中世以来の布産業や19世紀以降の靴産業に関わるものは、町でもきちんと収蔵されているだろう。
それにしても工房兼ショップの壁に掛けられている「オリジナルの文様」の木片を見ると、この町の「経済史」を目の当たりにした気分であった。(了)
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執筆者:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。 最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)
一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら。