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島田:「フレンド」と「知り合い」は違う。フレンドは1人か2人しかいない。アメリカへ行くとすぐに「フレンズ、ハイ!」という雰囲気があるが、(エアランゲン周辺の)フランケン地方は冷たい!

高松:そうですね。ドイツも北のほうへ行くと、ちょっと違いますが、特に南部の人はシャイ。(笑)
一方で日本のスポーツの環境とは随分違ったのでは?

島田:仕事が終わってから、息子のトレーニングに送っていかねばならないわけですが、まず気がつくのが子供と親の距離が近い。親はトレーニングを見ていたり、親同士もいろいろ話す。子供たちも知らない人に「ハロー」って挨拶しますよね。

高松:はい。

島田:ところが日本だと、「お父さん、もう来んとって」「お母さん、近寄らんとって」なんて感じになる。

高松:なるほど、確かにそういうふうに見ると、ドイツの親と子供の距離は近い。

試合になると、メンバーによる手作りのケーキなどが販売される。(写真=高松平藏)


島田:ところがね、息子がクラブに入って、ひと月、ふた月すると、むちゃくちゃ仲良くなった。今でも息子は手紙をやりとりしたり、ドイツへ遊びに行くと、家に泊めてもらうとか、いい関係が続いている。

高松:よくわかります。特にスポ-ツクラブは、とにかくウェルカムという感じにはなります。それに、少し馴染むと親同士もけっこう交流が出てくる。

島田:本でも書かれてましたけど、試合があったら僕らもケーキを作っていきましたよ。

高松:試合があるとメンバーの親がケーキを焼いて、コーヒーや飲み物なんかも用意する。そして小さなスタンドを作って販売します。

島田:順番があってね、「次、作ってきてね」と言われて「はい」と。(笑)

高松:「友達作りにくいドイツ」の話は私もよくわかります。しかしスポーツクラブなんかは、距離の近い人間関係ができてきます。ここがミソ。(笑)


クラブ感覚で仕事をすると新しいコミュニティができる


高松:スポーツクラブといった、ドイツの人間集団や生活に密着した「社会」を経験されてきたわけですね。その中に見いだせるコミュニティの感覚があります。ifLinkとどう関連付けていらっしゃいますか?

島田:スポーツクラブの体験でわかるのは、コミュニティを上手に作るのが大切です。動画をご覧になったかと思いますが、ifLinkのイベントも皆楽しそうにやってるでしょ。

3月30日に行われたifLink オープンコミュニティ サイバーキックオフ。(写真=Yotube上にある動画より)



高松:そうですね。ただ、水をさすようなんですが、どうしても企業人の人格でコミュニティを作ろうという雰囲気を感じました。キックオフイベントを進行されている方が冒頭、「私はディレクターの誰々です」というふうに自己紹介されていた。これは業務として「一生懸命コミュニティしましょう」という感じです。同じことを思われたのか、島田さんも「ディレクターとかそういうのはやめなさい」と言ってらっしゃいましたが。

島田:おっしゃることはよくわかる。まだ無理矢理感はありますね。現段階では企業同士のコミュニティをまず作ろうとしています。それでどうしても企業人の人格が出てくる。

高松:なるほど。

島田:他方、ドイツのスポーツクラブを始めとするフェライン(非営利組織、アソシエーション)をみるともっと自然。

高松:たとえばスポーツを一緒に楽しむために集まっているだけで、そこでは職業とか職位とは無関係の人間関係を作っています。

ドイツ各地で地域のビール祭りがあるが、スポーツクラブのメンバーが集まることもある。職業、年齢、性別を越えて、ただ「スポーツをともにする平等な仲間」。長時間、何度も乾杯する。(写真=高松平藏)



島田:そうです。その感覚で仕事をすると新しいコミュニティができるんじゃないかと思っている。

高松:そうですね。


ドイツに見るコミュニティの重層性


島田:それに対して、日本は会社だけが自分の人生になりがち。まあ、それはそれで心地よい時代がけっこうあったということもある。

高松:はい。

島田:昔の日立なんかはそう。僕の祖父が働いていたんですよ。工場が田舎にあるんで全員知り合い。社宅があって、運動会まである。運動会の日は奥さんが全員、部長の家に集まって、食べ物作っている。長屋みたいに戸があけっぱなしで、皆好き勝手に出入りして、勝手に飲み会まではじめる。それ自体は地域と会社が全部いっしょで、いいコミュニティです。でも外から来る人にとっては大変。

高松:ある意味、日本の古き良き時代です。ドイツはまるっきり正反対だったのでは?

島田:そうです。ドイツで働き始めたころ、早く皆と仲良くなろうと「飲みに行きましょう」と誘っても誰も来ない。

高松:そうでしょうね。夕方、皆さっさと退社します。

島田:だから夜はヒマ。夏時間なんかは時間もたっぷりある。1日が2回ある感じです。

高松:ふふふふ。

島田:会社にいる時間と自分の時間がある。人生2倍ある感じで、異なるコミュニティが重層的にある。そういう感覚をifLinkで実現したいなと。

高松:ドイツのスポーツクラブとifLinkがつながってきました。もうすこしそのへんをお話していきましょう。(第3回に続く

次回は 新しい価値を生み出すコミュニティの条件。日本とヨーロッパを見ながら考えていきます。

4回シリーズ 長電話対談 島田太郎×高松平藏
製造業発のコミュニティは次の社会を作れるか?
第1回 GAFAの本質はコミュニティ
→第2回 ドイツのスポーツクラブに見る「コミュニティ」
第3回 新しい価値を生み出すコミュニティの条件
第4回 一国でしか通用しないアイデアはだめ (最終回)

ドイツ・エアランゲンからネットを使って対談。あたかも「長電話」の如く、長尺対談記事の一覧はこちら