佐藤雅人さん(地域報道サイト「ケンオー・ドットコム」の経営者兼記者)へのインタビュー
先日の記事「地方選、投票率上げるには地域ジャーナリズムが必要だで、日本の例として触れた報道サイト「ケンオー・ドットコム」。新潟県の県央である三条市(人口10万人)・燕市(人口7.7万人)などのエリアをカバーする報道サイトだ。同サイトを運営する佐藤さんに、地域報道について聞いた。

カバー写真:報道サイト「ケンオー・ドットコム」はYahoo!検索大賞2016新潟県部門賞受賞した。地元のホテルで記念祝賀会・交流会が開かれ、読者の一人が同サイトにその様子を寄稿した。写真はその寄稿記事の一部。

2020年7月13日 聞き手・高松平藏(ドイツ在住ジャーナリスト)


ニュースサイトは災害報道に強い


サイトは2000年から。20年も続いている。

佐藤:毎日地域ニュースを5、6本アップしている。そんな報道活動に対し、地域で期待していただいている。これが、「やめられない理由」だ。アクセス数でいえば、Yahooと同じぐらいあるのではないかと思う。ただしそれは燕三条地域だけ。つまりネットサイトの経営としては母数が小さい。経営的には決して楽ではない。

三条市には紙の新聞を発行する「三條新聞」などもある

佐藤:読者の年齢層が違う。やはり紙の新聞だと50歳以上が多いが、当サイトは40歳以下。SNSでも発信をしていて、読者との関係も築けている。

紙の新聞とは異なる点は?

佐藤:災害時にネットの強みが出る。当サイトの記者は実質私一人だ。そのため取材できる範囲が限られる。しかし普段からSNSで交流のある読者の皆さんから細やかな情報を提供いただき、それを整理してすぐに配信できる。紙の新聞やテレビに比べると断然早い。速報は読者にとって自分の行動の判断材料になる。今回のコロナ危機でもそういう速報をどんどん発信したが反響がすごかった。

佐藤雅人(さとうまさと)さん

地域報道サイト「ケンオー・ドットコム」の経営者兼記者。
三條新聞(本社新潟県三条市)で14年間記者として勤務。IT関係の知識もあったため知人のネット関係の事業を手伝ううちに地域報道サイト「ケンオー・ドットコム」を開始。同サイトは「ヤフー検索大賞2016」で、新潟県部門賞を受賞している。
1961年生まれ、新潟県燕市出身。
FacebookTwitterでも頻繁に発信している。


燕三条地域での報道メディア


取材で苦労する点は?

佐藤:新聞ラジオテレビなどのオールドメディア比べると、ネットメディアは新しい。報道機関として軽く見られることがある。

三条市市長の国定勇人氏がブログで面白いことを書いていた。燕三条地域が県内で独特の地位を確立している理由のひとつとして、ケンオー・ドットコムを含む独立系メディアが多いからだという。

佐藤:三條新聞以外に、越後ジャーナルというのがあったが今春廃刊。三條新聞のカウンターという報道姿勢だったので、報道の多様性という点ではよくない。同紙は市の職員や議員などにはよく読まれていた。発行部数は少なかったが一定の影響力はあったと思う。

ケンオー・ドットコムの影響力は?

佐藤:手前味噌だがネットメディアだからこそ域外への地域発信力につながっている。テレビ局などもネタを集めるために当サイトを頻繁に見ている。取材先で局のクルーと一緒になることがあるが「いつも見てます」と感謝される。他にも全国のテレビ局からサイト内でアップしている動画を使わせてほしいといった問い合わせもある。これも「やめられない理由」のひとつだ。

佐藤さん(中央)は地域内ではよく知られている記者。全国紙の記者が地方に赴任するケースとは異なる存在感がある。(写真=佐藤さん提供)

地域ジャーナリズムの位置づけ


最近の報道方針は?

佐藤:行政や警察のことも報道しているが、発表ものは他のメディアも報じるので、「ウチでしか報じられないもの」に注力している。

地域での報道はどういう意味がある?

佐藤:地元の身近なネタを地域内で共有してもらうのが役割。これが地域の人と人の接着剤になる。たとえば東京の大学へ進学して誰かと知り合うとする。同じ新潟県出身だと知ると距離がぐっと縮まる。これは同じ情報を共有しているからだ。

なるほど、コミュニケーションの促進につながる。

佐藤:そういうことだ。これによって他者を排除しない、というか包摂性の高い地域社会を作ることにつながると考えている。報道を通じて自立的に活動する人をサポートし、地域社会の包摂性を高めることに貢献するのがミッションだ。(了)


【メモ】
三条市へは何度か講演などでお邪魔している。そのたびに、佐藤さんの姿をお見かけするが、地元の方々が声をかけていくのが印象的。この雰囲気は私が住むエアランゲンのジャーナリストたちとも似ている。
「独立したジャーナリズム」を維持するために、人々との距離をどうとるかは留意すべき点だが、地域内の全体像を第3者的に見る役割は大切だ。ドイツの地域には自立性と自律性が目につくが、地域ジャーナリズムの存在が一役も二役もかっている。(高松 平藏)

参考記事:地方選、投票率上げるには地域ジャーナリズムが必要だ


 聞き手:高松平藏(たかまつ へいぞう)
ドイツ在住ジャーナリストで当サイトの主宰者。 著書に「ドイツの地方都市はなぜクリエイティブなのか」など。 最新刊は「ドイツのスポーツ都市 健康に暮らせるまちのつくり方」 (2020年3月)
一時帰国では講演・講義、またドイツでも研修プログラム「インターローカルスクール」を主宰している。プロフィール詳細はこちら